文を敲く

読書記録とその他雑記。

恋の手ほどき -「風の影(上)」

風の影〈上〉 (集英社文庫)

風の影〈上〉 (集英社文庫)

古本屋を営む家で育った少年が、ある日「風の影」という本を手に取ったところから物語が動き始める。ありがちな話といえばありがちな話ではあるが、謎解きであると同時に「恋愛賛歌」となっていることが本書の特色だろう。現代日本では素直に恋の機微を語る小説はあまり多くない*1ので個人的には新鮮な感じがした。

舞台が第二次世界大戦後のフランコ政権下というのも渋い。日本なら1940年前後を舞台にするようなものであるが、たぶん時代考証面の問題でこの手の恋物語は書くことが出来ない。

*1:本書の主人公はある娘に一目ぼれして早速ふたりきりの世界を目指すが、日本でベストセラーとなる小説はふたりきりの世界の入り口に入ろうとしたところで幕を下ろしてしまうことも少なくない。