文を敲く

読書記録とその他雑記。

喚起 - 「権力の空間/空間の権力」

題名だけを読めば、政府や自治体の庁舎などを論じた本であると思われるかもしれない。しかし、著者は日本の団地や建売住宅も官僚システムによって作られた教育装置だと論じる。自宅は「プライバシー」によって保護された空間だと思いがちだが、その考えは誤りなのだ。本書は「住宅」を中心に権力との関係性を論じたものである。

アーレントマルクスの議論を引用しながら建築について論じているので、スラスラと読める本ではない。言い換えれば思索を深める材料が多いので、「空間」について考えるには最適の一冊だ。「仕事」と「労働」の違い*1は考えさせられるものがあった。

*1:「後世」に残るか否かが違いであるという。ちなみに古代ギリシアでは「後世」に残らない労働はもっぱら奴隷の役目であったそうだ。ところで現代日本に「仕事」がどれだけ残っているのだろうと思うと胸が熱くなる。