文を敲く

読書記録とその他雑記。

POSを補う手法 -「スリップの技法」

書籍に挟まれている「スリップ」と呼ばれる短冊状の紙を用いたデータ分析テクニック入門書である。POSだけでは分からない「売れ筋」を読み解く手法がいろいろと記載されている。書籍以外の分野にも応用は可能だと思われる。

とはいえ「「愛国本」の売れ筋を積むことも書店の重要な仕事と考える(P.162)」など若干気がかりになる記述も見受けられた。愛国本(という体でヘイトを煽る書籍群)を「積む」ことで売り上げと引き換えに失うものは少なくないのではないか。

2010年代の台湾 -「台湾の若者を知りたい」

2010年代の台湾の学生生活が主に記された本である。学校制度や生活スタイルの違いなどが詳しく紹介されていて面白く読むことが出来た。

一番驚きだったのがある学校のクラス目標に「(LINEのクラス連絡用グループは)既読スルーはしない」というものがあると紹介されていたことだ。先日台湾旅行した時に、なんとなく現地の放送を見ていたらLINEのCMがそこそこ流れていて感嘆したが、まさかここまで普及しているとは思いもしなかった。

本書には「影」の部分はほとんど書かれていないが、一部の学生は辛い学生生活を送っているであろうことは想像に難くない。

ポリティカル・コレクトレス - 「異セカイ系」

現代(2010年代後半)が舞台のようではあるが「セカイ系」だからか折々に散りばめられたキーワードや道具立てに懐かしさを感じる。ただしキーワードが分からなければあまり楽しめないハイコンテクストなメタフィクションである。

本作の主人公は自作小説に転生してから、なぜかポリティカル・コレクトレスな態度を取り始める。この態度もひとつの伏線であったとはいえ、同じメタフィクションでも四半世紀前に出版された筒井康隆の「朝のガスパール」などとは隔世の感がある。

「作者と登場人物の恋愛は可能か」という問題に対する作者が提示した解決策は私の意表を突いたもので、その手があったかと感嘆した。