文を敲く

読書記録とその他雑記。

ドキュメント・無頼系独立候補 -「黙殺」

先日、インディーズ系候補として著名だった又吉イエスが天に召された。氏がもっとも活発に活動していたのは2000年代であったためか、昨今の動向を中心に記載している本書では取り上げれていない。

しかしマック赤坂をはじめとする他の候補のドキュメンタリーはたいへん興味深く、立候補の意義や選挙が抱える問題点などもよく分かる。投票へ行く前に読んでおきたい一冊である。

近況

「自分のアタマで考えよう」という言葉がネットの一部*1で流行ったのはいつのことだったろうか。10年位前だろうか。当時はウケが良かったが、提唱者の評判が絶頂期を過ぎたあたりから、結局それは自分(のアタマ)で考えて私と同じ考えになるべきということなのではないかという意見が多くみられるようになった。オリジナリティへの疑念が強まったのが2010年代だったのかもしれない。

気が付けば誰かの言葉に星を付けるか、いいねを押すかの日々が続いている。このブログの更新頻度も低下して久しい。私は自分の言葉で書くことにおそらく飽きてしまったのだ。あるいは、日々のあれこれに急き立てられて気力を無くしてしまったのか。そういえばこのところ読書量も減っている。本業の方はここ最近、かつての社会主義国の公務員並みの暇があるにもかかわらず。

「自分のアタマで考える」ことは負荷が高いわりに「コストパフォーマンス」という面では微妙な部分がままある。いわんや自分の言葉で書くということは相当程度負荷がかかる。しかし自分自身の気分や考えをブリコラージュで表現できるかといえばそれは否である。借りてきた言葉に私自身が乗っ取られる可能性が高い。さてどうしたものか。

*1:より正確にいえばはてなブックマーク周辺

再評価の愉しみ -「エンドレスエイトの驚愕」

およそ10年前に放映されたアニメで起きた「事件」を分析哲学のアプローチで再評価する野心的な本である。事件発生当時も様々な考察が飛び交っていたが、本書はそれらの考察も丁寧に検討して作品が抱えてしまった問題点を子細に分析して「対案」まで記述する。文章の熱量もさることながら推理の面白さも抜群である。

エンドレスエイト」が唐突に繰り出したループを体感することは、本来、オタクというモラトリアム志向体質の人種にとっては居心地の良いことであるはずだった。(中略)しかし多くのオタクは、「早くストーリーを進めてくれ!」と絶叫した。(p.55)

オタク生活は根底においては、リア充生活に代わるものではなく、リア充人生の希薄化コピーにすぎなかったらしいのだ。(p.55)

作品を鑑賞していたオタクにとって痛い点まで的確についてくる。当該作品にそれなりに思い入れがある*1ことも大きいが、本書を2018年のベスト本に選びたい。

*1:当該アニメ自体は鑑賞していないが多方面で影響を受けている