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読書記録とその他雑記。

ダンディズム - 「ヨーロッパ退屈日記」

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

伊丹十三については内田樹本書を紐解きながら卓抜な人物評をしているので必読。この書評を読むよりも何倍も有意義である。

本書は日本人の大半がヨーロッパへの旅行など出来なかった時代に書かれたものだ。そのような時代にジャガーを乗り回して英国人のジョークを楽しんでいるのだから只者ではない。貴族的な人間なのである。本書で語られた薀蓄のいくらかは現代では常識になってはいるが、著者のようなダンディな振る舞いと知性は真似が出来ない。そもそもダンディズムは社交界に住まわなければあまり意味を成さない。

大江健三郎といえば韜晦で四角四面の人物と思われがちだが、本書では洒落っ気のある知人の作家として登場していて面白い。石川啄木金田一京助のような羨ましい友人関係である。