文を敲く

読書記録とその他雑記。

平野啓一郎「ドーン」を読んだ

ここ最近は短編小説集ばかり読んでいるので、ある種の気分転換も兼ねて、2009年を代表するなどと思想地図か何かで紹介されていたこの長編小説を読み始めた。当初ゆるやかだったページをめくる速度は次第に早くなり、1日で読み終えた。明るい結末だったので読了後の気分は爽やかだった。

しかし残念なことがある。2009年7月に発売された小説を2010年3月に読んでしまったことだ。2009年7月といえば総選挙が近づき、日本でも政権交代をという機運が高まっていた頃だ。この小説はアメリカの大統領選挙を軸に話が進む。近未来SFだが2008年の大統領選とほぼ同じ展開を辿る。そのため全体的に変化への希望が溢れている。

発売後しばらくして実際に政権交代がなされた。そして2010年3月。内閣の支持率は低下し、クジラやマグロや高校無償化などを巡ってニュース番組は盛り上がっていた。もはやあの頃の変化への希望は遠い昔のものになっていた。作中の登場人物はシニシズムに陥るなと確か強調していたが、残念ながら日本で今元気なのはシニシズムナショナリズムだと思う。