文を敲く

読書記録とその他雑記。

政治史 -「物語オランダの歴史」

共和国として生まれたが紆余曲折を経て王国になり現在に至るまでのオランダの政治史を記した本である。江戸時代の日本と唯一通商関係があったヨーロッパの国だが、日本側とは対称的に政治体制が目まぐるしく変わっていたというのは少しばかり意外に思えるものの、ヨーロッパ史の流れを考えれば納得感はある。

各時代の政治体制のほかに文化や経済にもそれなりに触れられているが、オランダで起きたチューリップ・バブルについて特に紙幅が割かれていないのは意外ではあった。

理由なき犯行 -「冷血」

ミステリーにおいて、殺人事件では犯行の動機が添え物であるが一応用意されることが多い。動機がなければ大袈裟なトリックを仕掛ける必然性が薄まってしまうからだ。しかし添え物なのであまり深く追及されることは無い。一方で現実の事件では「カッとなってやった」に代表される曖昧模糊とした動機が飛び出すことも少なくない。本書はこの曖昧模糊とした動機の深層に迫ろうとした小説である。

重いテーマであるが意外とサクサク読めた。実在の事件をモデルに書かれているだけあって犯行現場の描写は生々しい。犯人はどうしようもなく共感しがたい人間として描かれてはいるが、それでも血の通った人間としての姿を見せるわけである。私が「冷血」となっていないのは、たまたま巡り合わせがよかっただけなのではないか。読後も謎は深まる。

ふしぎなキリスト教徒 - 「ぼくはどのようにしてキリスト教徒になったか」

「余は如何にして基督教徒となりしか」の現代語訳である。原著が英語で書かれたことは遅まきながら本書の解説にて初めて知った。定評ある新訳シリーズだけあって読みやすい。おそらく原著もそこまで凝った文章ではなかったはずだ。

内村鑑三キリスト教徒となったが、アメリカではキリスト教各派の差異に右往左往する。橋爪大三郎が本書に寄せた解説で手厳しく批判していた点が印象に残った。