文を敲く

読書記録とその他雑記。

高等遊民の憂鬱 - 「私小説」

私小説―from left to right (ちくま文庫)

私小説―from left to right (ちくま文庫)

その名の通りの作品である。主人公美苗は口頭試問を先送りし続けるアメリカ在住の大学院生である。正真正銘高等遊民*1。そんな主人公が姉との長電話から自身の20年間にも及ぶアメリカでの生活を振り返りはじめるのである。

私小説なので分かりやすい筋は無いが、語られるひとつひとつのエピソードが面白くも切なく示唆に富むので次第に引き込まれていった。著者の本は「日本語が亡びるとき」しか読んだことがなかったが、これはもう他の著書も読むしかないと思ったほどだ。

アメリカ暮らしが長かっただけあって、現地の風俗や人物が生々しく描写されている。文中に入り乱れるナマの英語のおかげでもある。そして本書の主題のひとつはそのまま「日本語が亡びるとき」へと引き継がれたのだということもよく分かる。

*1:ちなみに作者はイェール大の博士課程まで修了してプリンストン大やスタンフォード大で客員教授まで勤めている