文を敲く

読書記録とその他雑記。

「残りの雪」読了

残りの雪 (新潮文庫)

残りの雪 (新潮文庫)

しばらく前から気になっていた立原正秋の作品である。夫に逃げられた里子が新たな「女」に脱皮する過程を描いた物語であった。里子は北鎌倉の実家を拠点に日本各地を旅行し、割烹などで旨いものを食べ、恋人と交わる。どこにそんな金があるのかと思うが、里子の実家も恋人も会社を持った資産家なのである。都合が良すぎるような気もするが、日本経済新聞の連載小説だったと知り納得する。この作品は大人のライトノベルに違いない。

所々で逃げた夫の生活が交錯する。無気力で受け身な夫は愛人Aに飽きて、新たな愛人Bと共に逃げ出し、さらにその愛人Bにも苦しさを感じて元の愛人Aとよりを戻したうえに、頼まれるまま新たな愛人Cとも関係が出来る。無気力で受け身の男に恋心を持ってしまう女たち。ライトノベルでありがちな展開を思い出さずにはいられない。

どこまでも美しく研ぎ澄まされた描写。里子の子供という「現実」は後景に退いたまま物語は結末を迎える。