文を敲く

読書記録とその他雑記。

そしてベンヤミンへ -「観光客の哲学」

その時々に出す著書が大きな反響*1を巻き起こすことが多い著者の最新刊である。巻末には一般向けの和書ではあまり見られない英文アブストラクトがついており、日本国内だけではなく世界に向けて発信したいという著者の心意気を感じる。以下、興味深かった点をいくつか挙げる。

第1章 観光

「他者」という概念の陳腐化を指摘しつつ、それに代わって「観光客」という概念を提起する。近代の産物としての「観光」の振り返りも兼ねてベンヤミンの議論が援用される。パサージュの子孫としてのショッピングモール。ふまじめなテロリスト。ここ最近の著者の関心に近い思想家はデリダよりはベンヤミンなのだと遅まきながら気が付く。

付論 二次創作

開沼博の批判に対する反論など。福島の二次創作(フクシマ)の耐えがたさを訴える開沼氏を「原作厨」の立場にあるとしている。

第2章 政治とその外部

『一般意思2.0』の補論。政治を「脱構築」することを目指していたにもかかわらず、大学にこもるか街頭でデモを繰り広げるかのほぼ二択を迫られているポストモダニスト。著者にとっては「街頭に出たら負け」なのだろう。

第6章 不気味なもの

情報社会論。SFを延命させた「サイバースペース」という概念。資本主義の本質を否定しないまま反資本主義的な理想を語る「カリフォルニア・イデオロギー」。一時期話題になった「分人」概念に対して、本アカと裏アカの使い分けの困難さを示して批判する手腕は鮮やかだ。

*1:あるいは「クソリプ」ともいう。本書誕生の原動力には著者へのクソリプに対する苛立ちが大きく作用していると思われる