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読書記録とその他雑記。

彷徨 -「ミッドナイト・エクスプレス」

ミッドナイト・エクスプレス (沢木耕太郎ノンフィクション8)

ミッドナイト・エクスプレス (沢木耕太郎ノンフィクション8)

新潮文庫だと全6巻で刊行されている「深夜特急」を一冊にまとめた本だ。そのため2段組みで700ページ近くあるが、面白いので3連休の間に読み終えてしまった。本書に触発されて旅に出た人は数多くいるだろうが、著者自身は旅する過程で自分の発見どころか自分を見失うような事態となっているところが興味深い。
なお、以下の小見出しは文庫本に準拠している。

1―香港・マカオ

日本から離れたくなった著者はインドのデリーからイギリス・ロンドンへバスで向かう半年間の旅を計画する。香港はインドへ向かう経由地に過ぎなかったはずだが、著者は香港の混沌に魅入られて思いのほか長居をしてしまう。マカオでのカジノ勝負は読んでいる方もハラハラさせられる。

2―マレー半島シンガポール

著者はまだインドに到達できない。香港で得た混沌をシンガポールでも探し求めるが失望する。宿やバスで出会うバックパッカーや現地住民との交流が面白い。

3―インド・ネパール―

著者はようやくインドに到着し、東アジア・東南アジアとは明らかに異なる文化風習に感銘を受ける。旅費を節約しようと移動でも宿泊でも必ず値切り交渉を行う姿はタフである。周到な計画も検索も行わずに旅をするからこそ得られるものも多いのだろうが、とても今の私には真似出来ない。

4―シルクロード

著者がこの旅を敢行したのは1970年代のことだ。今のような内戦もない比較的落ち着いた時代にパキスタンアフガニスタン・イラン・トルコを旅できるというのは何とも羨ましい。「青春発墓場行」など惹かれるフレーズもちりばめられていて目が離せない。

5―トルコ・ギリシャ・地中海―

ロンドンに近づくにつれて著者は「旅の終わり」を意識し始める。しかしどのように終えればよいのか答えは見つからない。本書は現代における「奥の細道」なのかもしれないとも思う。

6―南ヨーロッパ・ロンドン―

パリからそのままロンドンへ向かわずスペイン・ポルトガルへと足を延ばす。サンティアゴ・デ・コンポステーラではなくポルトガルの果てのサグレス岬へと向かうのは何とも著者らしい感じがする。