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拡張される移動 -「モビリティーズ」

モビリティーズ――移動の社会学

モビリティーズ――移動の社会学

移動と社会の変化を論じた大著である。本書の面白い点は徒歩や自動車など「人が動く手段」としての「移動」だけではなく、難民や亡命者など「移動する主体」や電子メールなどのメッセージの送受信に伴う情報の「移動」まで論じている所だろう。原書の出版が8年前なのでやや古くなった記述もあるが、概ね著者の指摘通りに事態は進行しているといえる。

第1部 モバイルな世界

「移動」を社会学で論じる意義をジンメルの指摘などを参照しながら説明している。本書における「移動」の定義を行っている箇所なので内容的には面白味は少ない。

第2部 移動とコミュニケーション

移動手段としての「徒歩」「鉄道」「自動車」「飛行機」がもたらした社会の変化の叙述が行われている。飛行機が発着する空港は「非場所」、つまり土地の固有性から切り離され世界中どこでも同じ仕組みになっているという指摘には唸らざるを得ない。ローコストキャリアの普及によって均質化は広がる一方だ。

第3部 動き続ける社会とシステム

「移動」がネットワークを維持強化し、人口集中が起きる理由について記述されている。宇野常寛が何かと訴えている「大きな箱」の必要性*1が決してオタクの突飛な意見ではなく、モバイル社会の大きな流れに沿ったものであることが理解できる。

関連図書

ポストモダン社会の特色を論じたバウマンの「リキッド・モダニティ」と、社会関係資本を論じたパットナムの「孤独なボウリング」は本書の議論の土台となっているのであらかじめ読んでおいたほうがよい。読まなければ本書の議論がよく分からない可能性が高い。