文を敲く

読書記録とその他雑記。

私生活 -「文学と私・戦後と私」

文学と私・戦後と私 (新潮文庫)

文学と私・戦後と私 (新潮文庫)

保守系文芸評論家として知られる著者のエッセイ集である。デビューして間もないころから評論家として足場を固めた時期までのものが収められているが、還暦を過ぎてから書かれたものだと言われてもそのまま信じてしまいそうな渋い文体だ。

しかし愛犬のダーキイをめぐる一連のエッセイは著者の嬉しそうな顔がありありと想像できてかえって面白い。愛犬を語る時だけはハートウォーミングなのだ。

大文字の政治について声高に叫ぶよりも私生活を重視し「喪失」の経験について何度となく語る著者。誰かに似ていると思ったが、村上春樹だと気が付く。アメリカの大学で何年か過ごしていたところまで似ている。調べてみたところ、このふたりを対比して書かれた評論があるようなので機会があれば読んでみたい。