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読書記録とその他雑記。

もどかしい - 「神聖喜劇 (三)」

神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫)

神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫)

第一巻からフラグが立てられ、いよいよ気になって仕方がない主人公の同期兵の出自。我ながらまんまと著者の仕掛けた罠に嵌っているとも思う。しかしこの第三巻でも「うわさ」話や主人公の随想の中で執拗に取り上げられるが、なかなか核心には近づかない。もどかしい。

本物のインテリ、文人である主人公東堂太郎と「エセインテリ」「悪質転向者」の片桐伍長の滑稽なやりとりが本巻の醍醐味だろう。「転向」というと「共産主義」「治安維持法」を連想して過去の話だと思ってしまうかもしれないが、は今も起きている(例:朝日新聞)ことを考えれば無邪気には笑えないのだ。凡百の小説とは絶対的な差を感じずにはいられない。