文を敲く

読書記録とその他雑記。

小説の書き方入門ではない - 「新しい文学のために」

新しい文学のために (岩波新書)

新しい文学のために (岩波新書)

新書といえば大抵数時間程度で読めてしまう。なぜか。本書で挙げられている異化の理論を借りれば「自動化」されているからである。手垢にまみれた表現ばかりが使われているから何も考えずにすらすらと頁をめくることが出来るのだ。しかし本書は大江健三郎の独特の文体で緻密に書かれているので安易に読み通すことは出来ない。自己啓発本風の新書にありがちな親切な見出しは一つもない。

本書は文学の書き手になりたい若い人のために書かれた新書である。ただしプロットの作り方などハウツー的な入門書ではない。「戦争と平和」や「罪と罰」などを例に文学の在り方を論じている。読み捨ての小説ではなく、いつまでも人の心に残り続ける小説を書きたい人のための入門書だ。