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数奇な生涯 - 「落日燃ゆ」

落日燃ゆ (新潮文庫)

落日燃ゆ (新潮文庫)

A級戦犯として処刑された唯一の文官、広田弘毅。総理大臣も務めた人物だが東条英機の存在感で隠れて影が薄い。歴史の教科書でもそれほど取り上げられることは無い。しかし本書を読めばそんな見方もいくらか変わる。

広田は元々幣原喜重郎らに連なる国際協調路線の外交官だ。激しい出生欲があったわけではないが人柄を買われて総理大臣に就く。A級戦犯と言えば積極的に戦争遂行を進めた人物という印象が強いが、彼は違う。外交官時代に培った知識や人脈を生かして戦線の拡大を抑えようと苦心するが、結局時代の渦に沈んでいくのだった。そして東京裁判では彼を苦しめた軍人らと共に被告として裁かれ、処刑される。

歴史を学ぶ意義は「過ちを繰り返さないため」だ。「昔はよかった」と全肯定するためではない。本書は大日本帝國の「過ち」について考え始めるために役立つ一冊だと思う。