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読書記録とその他雑記。

切実な物語 - 「俺俺」

俺俺 (新潮文庫)

俺俺 (新潮文庫)

映画化もされていたのでもうちょっと軽快な内容かと思っていたが、大間違いだった。俺という現代人の代表が一筋の光を求めてもがき苦しむ物語だった。主人公の俺の周りに次々と現れる。登場するの大半は挫折したり打ちひしがれていて、読んでいて心が苦しくなる。自分自身や友人の姿を「俺」につい重ねてしまうからだ。

本書の社会的背景をなぞかけで表現するなら「現代人とかけて綾波レイと解く、その心は?*1」といったところだろうか。ちょっと違うかもしれない。総中流幻想の消滅によって人間の平均的価値は再び暴落してしまった。無価値かもしれない人間の精神的支柱がアイデンティティだがこのアイデンティティも役に立たないのが現代だ。

「個性の尊重」というのは「(才能ある人間に対する)個性の尊重」だったのかもしれない。世の中の9割以上の人間はおそらく凡人だ。個性を獲得できなかった凡人はどこに向かうべきなのか。

*1:私が死んでも代わりはいるもの。