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勘違いしやすいタイトル - 「夢と魅惑の全体主義」

夢と魅惑の全体主義 (文春新書)

夢と魅惑の全体主義 (文春新書)

全体主義を褒め称えるトンデモ本のように思えるタイトルだが、中身はファシズムやナチズムなどの全体主義が作ろうとした建築物や都市計画を読み解く新書である。イタリア、ドイツ、ソビエト連邦、日本、満州国、中国と第二次大戦前後の全体主義国家の建築思想が鮮やかに対比されている。

ヒトラームッソリーニなどのカリスマ的独裁者が率いた国では建築物も都市計画もおおむね壮大である。とりわけ建築好きのヒトラーの執念を物語る数々のエピソードは面白い。限りなく誇大妄想に近いが「夢」であり「ユートピア」であることはまず間違いない。

一方、官僚がリーダーシップを取っていた日本は、鉄材確保のためビルの建設を規制し、木造安普請を都心に建て続ける。あくまでも現実主義なのだ。

アーキテクチャ」から政治思想を読み解く本書の試みは今読んでも面白い。新書としてはページ数が多いが夢中で読み終えてしまった。