文を敲く

読書記録とその他雑記。

「中国史」

国史という大河を東洋学の泰斗が悠々と叙述した通史である。古代から現代までの大枠をとらえるには最適だと思われる。

ときどき「処理」の変換ミスで「胥吏」という言葉が出てくるが本書によってその指し示すもののイメージをようやくつかむことができた。かつての王朝では末端の官吏は請負だったらしい。ある種の「小さな政府」ではあるがそれが賄賂の横行につながった訳でもある。読んでいるうちにいろいろ連想が深まった。

堅実 -「チベット仏教入門」

チベット仏教の入門書である。概してチベット仏教関連本は『虹の階梯』*1をはじめとして神秘性が押し出されがちである。一方、本書はチベット仏教の思想の特徴を述べるにあたってこの神秘性を押し出さず、代わりに仏教の受容史や日本の大乗系仏教との共通点などに触れる。チベットに留まらない仏教入門本になっていることが本書の魅力だ。理論と実践のバランスもよいので折に触れて再読したい一冊である。

*1:本書の補章において当該書籍および著者に対して丁寧な批判が行われている

政治史 -「物語オランダの歴史」

共和国として生まれたが紆余曲折を経て王国になり現在に至るまでのオランダの政治史を記した本である。江戸時代の日本と唯一通商関係があったヨーロッパの国だが、日本側とは対称的に政治体制が目まぐるしく変わっていたというのは少しばかり意外に思えるものの、ヨーロッパ史の流れを考えれば納得感はある。

各時代の政治体制のほかに文化や経済にもそれなりに触れられているが、オランダで起きたチューリップ・バブルについて特に紙幅が割かれていないのは意外ではあった。